
「ミミズと健康」をご覧の皆様、こんにちは!
今回は、古くから東洋医学で中風(脳卒中)の治療薬として重宝されてきたミミズの、科学的な研究から明らかになった驚くべき健康パワーをご紹介します。特に注目するのは、西洋赤ミミズ(Lumbricus rubellus)から発見された、強力な血栓溶解作用を持つ酵素群「ルンブロキナーゼ」です。
血栓溶解の鍵を握る「ルンブロキナーゼ」とは?
私たちの健康を脅かす血栓(血の塊)は、心筋梗塞や脳梗塞といった重篤な病気の原因となります。この血栓を溶かし、血液をサラサラにする働きを「線溶作用」と呼びます。
1991年、宮崎医科大学の研究チームは、西洋赤ミミズからこれまでにない強力な線溶酵素を抽出することに成功しました。この酵素は、プラスミノーゲン(線溶作用に関わるタンパク質)がある場合でもない場合でも、血栓の主成分であるフィブリンを分解する能力を持つことが確認されました。
この画期的な酵素は、その特性から「ルンブロキナーゼ」と名付けられました。
ルンブロキナーゼの優れた特徴
私たちの血管内では、傷や炎症などで血管が破れて出血すると、出血を止めるために生体が血液を凝固させ血栓(フィブリン塊)を作る一連の仕組みがあります(凝固系)。やがて血管が修復されると、今度は線溶系(せんようけい)という仕組みがが働いて、出血時に作られた血栓(フィブリン塊)を分解・除去して血流を正常に戻します。
具体的には、血栓の中で不活性な「プラスミノゲン」が「プラスミノゲンアクチベータ」の作用を受けて活性化し、タンパク質分解酵素「プラスミン」に変化します。このプラスミンが血栓の主要成分であるフィブリンを溶かすことで、血栓を除去します。
線溶系と凝固系は、出血を止める凝固系と、固まった血栓を溶かす線溶系が互いに連携し、そのバランスを保つことで血液の流動性を維持しています。
ところが、動脈硬化などを起こしている血管では、常に血管壁で炎症が生じて傷つき血栓が作られてしまいます。血栓ができることで、血管が流れにくくなったり、作られた血栓が剥がれて流れて心臓の冠動脈や脳の血管を塞いでしまうと、心筋梗塞や脳梗塞が起こります。
心筋梗塞や脳梗塞は一刻を争う病気ですので、治療では、詰まった血管の血栓を溶かすために、直接血栓を溶かすプラスミンや、プラスミノゲンをプラスミンに変換させるプラスミノゲンアクチベータの働きを持つ薬剤が使用されます。しかし、血栓溶解剤は非常に高価で、しかも副作用の大変強い薬剤ですから、医師の厳格な管理の下で点滴により投与されます。
しかし、研究によって、西洋赤ミミズ(Lumbricus rubellus)から発見された線溶酵素ルンブロキナーゼには、上記の薬剤とは違って、以下のような優れた特徴があることが明らかになりました。
強力な線溶活性: 既存の血栓溶解剤(ウロキナーゼなど)と比較しても、非常に高い血栓溶解能力を持つことが確認されています。
熱・pH安定性: 幅広い温度やpH環境下でもその活性を失いにくく、体内で安定して作用することが期待されます。熱に強いことは、加熱殺菌にも耐えられます。pH安定性は、胃酸などで分解されずに吸収されるので、経口摂取による血栓溶解剤としての可能性も示唆されています。
高い安全性:有効成分線溶酵素ルンブロキナーゼを含む西洋赤ミミズ(Lumbricus rubellus)は、副作用がなく安全に経口摂取できる血栓溶解剤としての可能性が示唆されています。
西洋赤ミミズ(Lumbricus rubellus)の有効成分の発見
西洋赤ミミズ(Lumbricus rubellus)の粉末に含まれる、血栓を溶かす働きを持つ酵素(線溶酵素)ルンブロキナーゼの精製を行った結果、3つの画分を得ました。
それらは、単一の酵素ではなく、6つの異なる働きを持つ酵素の複合体であることが判明しました。
3つの酵素はキモトリプシン様酵素、2つの酵素はトリプシン様酵素、もうひとつはキモトリプシンでもトリプシンでもエラスターゼでもない酵素でした。これらの酵素は新規の線溶酵素とみなされ、ミミズの一般名からルンブロキナーゼと命名されました。ルンブロキナーゼは複数の酵素で構成され、これにより多角的に血栓にアプローチし、より効果的な溶解作用を発揮すると考えられます。
古くからの知恵が科学で裏付けられる
ミミズは、中国や極東地域で古くから解熱剤や循環器系疾患の様々な病気の治療薬として利用されてきました。しかし、その薬理作用については不明な点が多く、科学的な根拠が十分ではありませんでした。
今回の研究は、古くからのミミズの利用が、現代科学によってその有効性を裏付けられた画期的な成果と言えます。ミミズが持つ強力な血栓溶解作用は、今後の健康維持や疾病予防に新たな可能性をもたらすかもしれません。
まとめ
西洋赤ミミズから発見された「ルンブロキナーゼ」は、強力な血栓溶解作用を持つ新規酵素群です。その優れた安定性と多角的な作用は、将来的な血栓症治療や予防への応用が期待されます。
これからも「ミミズと健康」では、ミミズに関する最新の科学的知見をお届けしていきますので、どうぞご期待ください。
参考文献
Hisashi MIHARA, Hiroyuki SUMI, Tomoyuki YONETA, Hideaki MIZUMOTO, Ryuzo IKEDA, Masao SEIKI. A Novel Fibrinolytic Enzyme Extracted from the Earthworm, Lumbricus rubellus. Japanese Journal of Physiology, 41, 461-472, 1991
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