7年間もの長期間放置されても活性を失わない西洋赤ミミズの線溶活性

「ドロドロ血液をサラサラにしたい」「生活習慣病が気になる」そんなお悩みはありませんか?古くから漢方薬「地竜(じりゅう)」として重宝されてきたミミズには、私たちの健康をサポートする驚くべきパワーが秘められています。
前回お話ししましたように、研究により、西洋赤ミミズ ルンブルクスルベルスには「ルンブロキナーゼ」という血栓(血液の塊)を溶かす特殊な線溶酵素(血栓を溶かす働きのある酵素)が含まれていることが分かってきました。
今回ご紹介する論文は、数あるミミズ酵素の中でも、7年間もの長期間放置されても活性を失わない、驚異的な安定性とパワーを持つ酵素を発見した画期的な研究で、皆様に分かりやすく解説していきます。

上の図の左側の写真(a)をご覧下さい。モノクロ写真で分かりづらいですが、7年間放置された西洋赤ミミズの酵素です。右側の写真(b)の丸い輪は、フィブリンプレートと呼ばれる人工的に作られた血栓に、その線溶酵素が血栓を溶かした部分です。
長期間に渡り、強力に血栓を溶かす西洋赤ミミズが持つ未知の可能性に、あなたもきっと驚くはずです。

ミミズは古くからの健康の知恵

日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、ミミズは古くから中国や日本で、伝統的な健康法として利用されてきました。漢方の世界では「地竜」という名前で知られ、熱を下げたり、体の巡りを良くしたりする目的で使われてきた歴史があります。
しかし、その効果の多くは経験的に知られているもので、具体的に「どんな成分が」「どのように」体に良いのかは、長年謎に包まれていました。

科学が解明!ミミズの力、その正体は「線溶酵素」

科学者たちの研究によって、ミミズの驚くべきパワーの源の一つが「線溶酵素(せんようこうそ)」であることが明らかになりました。

線溶酵素とは?
一言でいうと「血栓(けっせん)を溶かす働きを持つ酵素」のことです。

血栓は、血管の中で血液が固まってできた塊で、脳梗塞や心筋梗塞といった深刻な病気の原因となります。この危険な血栓を溶かし、血液の流れをスムーズにしてくれるのが線溶酵素なのです。
この論文を発表した研究者グループは、以前からミミズに含まれる線溶酵素「ルンブロキナーゼ」に注目し、口から摂取しても血栓を溶かす効果が期待できることを報告していました。韓国では、ミミズの粉末を含んだカプセルが健康のために利用されているほどです。

【衝撃の発見】7年間放置しても消えない!驚異のミミズ酵素

今回の論文で最も驚くべき点は、その酵素の発見方法にあります。
研究者たちは、なんとミミズを水に入れて7年間も室温で放置した「自己分解物」(どろどろに溶けた真っ黒な液体)の中から、新しい線溶酵素を発見したのです。
通常、タンパク質である酵素は非常にデリケートで、時間の経過や環境の変化によってすぐに壊れてしまいます。しかし、このミミズ酵素は、他の成分が分解されてしまうような過酷な環境を7年間も生き抜いた、驚異的な安定性を持っていました。
さらに、そのパワーも絶大で、人工的に作った血栓(フィブリンプレート)にこの液体を垂らすと、血栓が強力に溶けていく様子がはっきりと確認されました。これは、この酵素が直接血栓に働きかける、非常にパワフルな酵素であることを示しています。

タフで強力!このミミズ酵素の驚くべき特徴

さらに詳しく調べてみると、この酵素の驚くべき特徴が次々と明らかになりました。
熱やpHの変化に強い:60℃以下の温度や、幅広いpH(酸性・アルカリ性)の環境でも安定しており、非常にタフな酵素です。
凍結・解凍を繰り返しても平気:5回凍らせたり溶かしたりを繰り返しても、その働きの95%以上を維持していました。
特定の物質に強く反応:血液を固める働きに関わる「トロンビン」という物質と似たようなものに強く反応することが分かり、血栓溶解メカニズムのヒントが得られました。
これほど安定した動物由来の酵素は、これまでほとんど報告がありませんでした。この驚異的な安定性こそが、ミミズが持つ生命力の源泉なのかもしれません。

ミミズ酵素が拓く、健康な未来への可能性

この研究は、ミミズの中に、私たちがまだ知らない非常に安定で強力な線溶酵素が存在することを示しました。
なぜこの酵素がこれほどまでに安定しているのか、その詳しい構造や、ミミズに含まれる他の成分との関係など、まだ解明すべき点は多く残されています。
しかし、この驚異的な安定性は、サプリメントなどとして口から摂取した際にも、その効果を失わずに体内で働くことができる可能性を強く示唆しています。
ミミズの持つ計り知れないパワーが、将来、血栓が原因となる病気の予防や、新しい治療法の開発に繋がっていくかもしれません。今後の研究から、ますます目が離せません。

参考文献

HIROYUKI SUMI,NOBUYOSHI,NAKAJIMA,HISASHI MIHARAA.VERY STABLE AND POTENT FIBRINOLYTIC ENZYME FOUND IN EARTHWORM LUMBRICUS RUBELLUS.Comp. Biochem. Physiol. Vol. 106B, No. 3, pp. 763-766, 1993

執筆者

三砂雅則