新型コロナウイルスと脳卒中

高齢者や高血圧症、糖尿病などの基礎疾患があると新型コロナ感染で重症化

新型コロナウイルスに感染した場合、高齢者や高血圧症、糖尿病などの基礎疾患があると重症化することはよく知られていますが、重症化した方では脳卒中、特に脳梗塞の発症率が高いと言われています。その要因のひとつは、血栓症の併発です。

新型コロナウイルスに感染すると、炎症、血管内皮障害、異常な免疫反応などが生じると言われています。新型コロナウイルスが肺胞上皮細胞や血管内皮細胞に感染すると、単球や好中球などの免疫細胞からインターロイキンなどのサイトカインと呼ばれる物質が過剰に放出され、サイトカインストーム()と呼ばれる状態を引き起こします。その結果、血液の固まりやすさ(凝固能)が上昇して、血栓が形成されます。脳梗塞以外に、くも膜下出血や脳出血を併発した患者さんの報告もありますが、いずれにしても、新型コロナウイルスに感染している患者さんの脳卒中の予後は、極めて不良です。

それでは、血栓止血学会に投稿された論文「新型コロナウイルス感染症と脳卒中」を元に詳しくすく解説してみたいと思います。

新型コロナ感染者の脳卒中はインフルエンザ感染者の7.7倍

臨床医学研究で最もエビデンスを発揮する方法は、メタアナリシス(メタ解析)と呼ばれる手法で、たくさんの臨床医学研究の結果を集めて、全体としてどんな結論が導き出せるかを調べます。世界中で報告された 新型コロナウイルス感染症に関する61 の論文をメタ解析した結果では, 新型コロナ感染症入院患者の脳卒中発症率は 1.4%と推計されました。

感染症は一般に、脳卒中発症するリスクを高めることが知られています。インフルエンザに感染すると、健康な人に比べて脳卒中リスクが 2.9倍に高まります。それが新型コロナ感染症 では、そのインフルエ ンザ感染症に比べて、さらに7.7倍にも高まっていることが分かりました。 さらに、集中治療が必要な新型コロナ感染症重症者ほど,軽症・中等 症例より発症率が高くなることも分かりました。

新型コロナ感染者の脳卒中の種類 と特徴

新型コロナ感染者が脳卒中発症時点では、すでに 84.1%もの患者は先行して呼吸器症状が出ていました。呼吸器症状出現から脳卒中発症までの期間は平均 8.8 日で,その多くは 21 日以内でした。脳卒中の種類は、脳梗塞が 87.4%を占め, 脳出血 11.6%,脳静脈血栓症 0.5%,一過性脳虚血発 作 0.1%でした。
また、新型コロナ感染者174 例 (平均 71.2 歳,女性 37.9%)の脳卒中発症患者を調査すると重症例が多く、重度後遺障害や 死亡に至る例も多かったと報告されています。
画像検査 の結果では、脳梗塞を起こした血管は多岐にわたり、また時期の異なる急性・亜急性病変が見られました。脳梗塞の型は、原因が特定できない潜因性脳梗塞が 44.7%と最も多く、2番目が心原性脳塞栓症で 21.9%、3番目がアテローム血栓性脳 梗塞で10.6%、4番目がラクナ梗塞は 3.3%と報告されています。

また、新型コロナ感染者の脳出血については,大脳皮質の下の領域で起こる脳出血(脳葉型の皮質下出血)が49.2%と半数を占めています。高血圧や抗凝固薬の影響が指摘されているほか,低酸素により皮質直下や脳梁に生じた脳微小出血もかかわっていると考えられています。

新型コロナ感染者の脳卒中発症メカニズム

1)血液凝固異常
新型コロナ感染症 では血液凝固の異常が高頻度に見られ、血液検査では D ダイマーやフィブリノーゲンが高い値を示しました。また、血中に抗リン脂質抗体とよばれる 自己抗体 が現れる、抗リン脂質抗体症候群も発症して、動脈にも静脈にも血栓を生じることもありました。

2)血管内皮機能障害
新型コロナウイルスはウイルス表面にあるスパイクが、血管の内側にある ACE2という受容体に付着して、血管内皮細胞に感染します。血管内皮に感染すると、血管を拡張する働きや炎症を抑える働きが阻害されるとともに, 血小板の粘着や凝集を促進させます。
さらに、新型コロナ感染による肺胞の傷害でガス交換ができず低酸素血症を起こします。加えて、主要な臓器を栄養している血管にも損傷が生じるので、交感神経が過緊張状態になって血圧が上昇し,血液脳関門も機能不全になります。

3)心筋傷害
ウイルス性心筋炎、サイトカインによる攻撃、低酸素による虚血など、数々の要因が重なって心筋が傷害されてしまいます。これらの原因で生じた不整脈,あるいは直接の心筋が障害されることによって、心臓内で内血栓が形成され血栓塞栓症を発症してしまいます。

参考文献;平野照之.新型コロナウイルス感染症と脳卒中.血栓止血誌 2022; 331: 57-59