西洋赤ミミズ

東洋では、ミミズは古来より解熱鎮痛剤や脳卒中の薬として用いられてきましたが、西洋医学でも、ミミズが大いに注目されるきっかけとなった出来事が、血栓溶解作用を持つ酵素や物質の発見でした。

歴史的にみますと、ミミズの有効性を初めて科学的に評価したのが、19世紀末のFredericqです。彼は、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる血栓を溶解する作用を持つ血栓溶解酵素がミミズの含まれている可能性を示しました。1)

1915年には、ミミズの皮の部分に含まれるルンブロフェブリン(Lumbrofebrin)が解熱作用を示すことを、田中、額田らが報告しました2)

1920年には、Keilinらが、ミミズからカゼイン、ゼラチン、アルブミンを分解する、タンパク分解酵素を発見しました3)

1951年には、Traceyがセルラーゼやキチナーゼの存在を報告し、これらの発見は私たちの健康に有用なだけでなく、バイオマスへの応用にも有効であることがわかってきました4)。バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す概念で、再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものを表します。植物は太陽と水と二酸化炭素があれば、持続的にバイオマスを生み出すことができますが、植物に大量に含まれる食物線維を、ミミズの消化酵素セルラーゼなどで、分解して利用することが可能になります。

そして、1991年にミミズの体部に含まれる物質が血栓溶解示すことを医学的に証明し、またその有効成分を同定し、ルンブルキナーゼと命名したのが美原恒博士で、今日まで応用されています5)

 

参考文献

1)Fredericq,L.et al.:Archiv.Zool.Experiment.Generale,7,391(1879).

2)田中伴吉.額田晉.蚯蚓ノ解熱作用及ビ其有効成分ニツキテ.東京医学会雑誌 1915:29:221-251.

3)Keilin,D.:Q.J.Microsc.Sci.2,33(1920).

4)Tracey,M.V.:Nature,167,776(1951).

5)Mihara,H.et al:Jpn.J.Physiol.,41.461(1991)