ミミズは婦人病や回遊駆除の漢方薬
皆さんは、ミミズが漢方薬の原料となるのを知っていますか?
実は病気の治療にミミズを用いられた歴史は古く、数千年の間に中国や東アジアの特定地域に広がってきました。漢方薬の原料として用いられてきたミミズは、神農本草経の下品の項で、白頸蚯蚓(ハッケイキュウイン)の名前で、婦人病や回虫駆除のお薬として収載されていました。
ミミズは地龍の名で解熱鎮痛作用のある漢方薬として用いられた
1061年に中国の大常博士の蘇頌という人が著したと言われる「図経本草」には、ミミズは地龍(ジリュウ)という別の名前で収載されています。1)
「図経本草」は、薬図と解説からなる全20巻の本草書(薬物についての知識をまとめた書物のこと)で原本は消失しましたが、そのほぼ全容が「証類本草」に転記されているため、現行の「政和証類」や「大観証類」からその内容をうかがい知ることができます。
余談ですが、太常(たいじょう)とは、中国の秦・漢代の行政官職の総称である九卿の一つで、博士とは秦以来の官名で、古今に通暁した人を指します。
話をミミズの漢方に戻しますね。
地龍は、ミミズの腹部を開いて、体内の内容物を取り去り、乾燥したものを用います。
中国の古典には、「地龍は泄を降ろし、経絡を通じ、熱を清し、驚を定め、水を利し、喘を平らにする薬能がある」と記載されています。現代医学的に言い換えると、解熱作用や鎮痙(ひきつけ治す)、慢性関節リウマチ痛みを鎮めたり、おしっこが出にくくて浮腫みを起こしているとき、胃が炎症を起こして便秘になったときなどに効果があるということになります。2)
地龍には、有効成分としてルンブロフェブリンなどが解明されており、解熱作用、気管支拡張作用、降圧作用などがあることがわかっており2)、現代で風邪薬などに配合されている解熱鎮痛剤に似たような働きですね。
1)真柳誠「『図経本草』所引の「張仲景医書」について」『日本医史学雑誌』32巻2号238-240頁.日本医史学会第87回学術大会.1986年4月
2)難波恒夫.和漢薬百科図鑑[Ⅱ]P255-257.保育社