血栓症に対するミミズの有効性を初めて科学的に解明されたのは、1989年、宮崎医科大学(現宮崎大学医学部)の美原恒博士でした。西洋赤ミミズの内臓部分に線溶活性物質ルンブロキナーゼが含まれていることが報告されたのです3)4)。当時はまだ血液の凝固や線溶の解明がなされていない時代でした。CTもMRIもない時代で、美原先生は、能祖中の患者の患者のところに出かけては治療を行い、患者の線溶活性を測定し、死亡した症例についてはすべて病理解剖を行っていました。その結果、脳出血発症24時間以内では線溶亢進が起こり、脳梗塞では逆に線溶活性が低下していることを発見しました5*)
その後、高血圧治療などによって脳出血は減り脳梗塞の方が問題になりつつあり、宮崎医科大学に赴任してからは、血栓症に対する血栓溶解療法の研究に軸足が移りました。当時の血栓溶解剤はウロキナーゼと言って、尿から抽出する非常に高価な薬剤でした。そこで普段口にする食材の中から抽出できないものかと調べたところ、焼酎や納豆に線溶活性があることが分かりましたが、血栓を溶解するまでの効果はありませんでした。
宮崎先生は、大学の動物実験施設長も兼務されていたことから、実験動物の排泄物処理に西洋赤ミミズ(ルンブルクス ルベルス)を用いることを発案されました。排泄物の処理には成功しましたが、増えるミミズの利用方法が新たな問題となりました。ある日先生は、ご自身の研究テーマである線溶活性がこのミミズにあるか試してみました。
線溶活性の測定に用いるフィブリン平板に、ミミズを切断して乗せたところ、ミミズの体液に線溶酵素が存在することが判明しました。
この線溶酵素をさらに詳しく調べたところ、熱に強く幅広いpHで活性があることが分かりました。この酵素を純粋に抽出した結果、6種類の酵素が判明し「ルンブロキナーゼ」と命名しました。
美原先生が西洋赤ミミズの有効成分「ルンブロキナーゼ」を発見されて以降も、西洋赤ミミズの血栓に対する研究が続けられ、血栓溶解作用以外にも、糖尿病、高血圧、動脈硬化等に対して有効であることが、医学、薬学等の世界で徐々に解明されて来ています。
これら、西洋赤ミミズの有効性について、研究論文、特許などをご紹介します。
参考文献
2)田中伴吉.額田晉.蚯蚓ノ解毒作用及ビ其有効成分ニツキテ.東京医学会雑誌 1915:29:221‐251.
3)H.Mihara,T.Yoneta,H.Sumi,M.Soeda and M.Maruyama: "A possibility of earthworm powder as therapeutic agent for thrombosis." Thrombosis and Haemostasis. 62. 545 (1989)
4)H.Mihara,H.Sumi,T.Yoneta,H.Mizumoto,R.Ikeda,M.Seiki and M.Maruyama: "A novel fibrinolytic enzyme extracted from the earthworm,Lumbricus rubellus." Japanese Journal of Physiology(日本生理学会誌).
5)穴水聡一郎.長屋直樹.藤純一郎.馬渕茂樹.凍結乾燥ミミズ含有サプリメントによる動脈硬化改善効果の検討.Kampo Med Vol.66No4 275-281,2015